東京高等裁判所 昭和60年(行コ)35号 判決 1986年12月24日
控訴人 首藤善吾
被控訴人 総務庁恩給局長
代理人 三ツ木信行 石川和雄 ほか二名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
原判決を取り消す。
被控訴人が控訴人に対してした昭和五七年八月二四日付旧軍人普通恩給請求棄却裁定を取り消す。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決
二 被控訴人
主文と同旨の判決
第二当事者双方の主張
一 控訴人の請求の原因
1 控訴人の旧軍人歴
(一) 控訴人は、
<1> 昭和一四年五月一日現役兵として歩兵第四七連隊補充隊に入隊し、昭和一七年五月二日現役延期解止、除隊となり、
<2> 昭和二〇年七月三〇日臨時召集により歩兵第三八七連隊に入隊し、昭和二一年一〇月一六日旧軍人を退職した。
<3> 控訴人の旧軍人としての実在職年は、昭和二一年法律第三一号による改正前の恩給法4(以下「改正前の恩給法」という。)二八条一項、二項本文により<1>の三年一月と<2>の一年四月を合算した四年五月である。
(二) 在職年加算事由
控訴人はこの間、
<1> 昭和一四年八月二八日から同年九月一六日まで満州において戦地戦務に従事し、
<2> 同年九月一七日から昭和一五年三月三一日まで擾乱地において勤務し、
<3> 同年四月一日から昭和一七年五月二日まで国境警備に従事し、
<4> 昭和二〇年七月三〇日から同年八月八日まで外国鎮戍に服務し
<5> 同年八月九日から同年九月二日まで戦地戦務に従事し、
<6> 同年九月三日から昭和二一年一〇月一六日まで外国鎮戍に服務した。
2 控訴人は、昭和五五年九月一日被控訴人(当時、総理府恩給局長)に対し、改正前の恩給法に基づき旧軍人普通恩給の請求をした。これに対し被控訴人は、昭和五七年八月二四日付けで右請求を棄却する旨の裁定(以下「本件裁定」という。)をした。
3 控訴人は、本件裁定に対して昭和五七年一一月二九日異議申立てをしたが、昭和五八年四月一八日棄却され、同年六月一一日内閣総理大臣に対して審査請求をしたが、昭和五九年二月二三日に棄却された。
4 改正前の恩給法三二条ないし三五条、四〇条、九二条及び恩給法の一部を改正する法律(昭和二八年法律第一五五号)附則二四条等によれば控訴人の加算年は、次のとおり七年一一月である。したがつて、これに実在職年四年五月を加算すると総在職年は一二年を超えることとなり、改正前の恩給法六一条ノ第一項(編注・六一条ノ二第一項の誤りか。)所定の在職年一二年を満たしているから、本件裁定は違法である。
<1> 加算年七年一一月の内訳は次のとおりである。
加算年を附すべき基礎在職期間 基礎在職年 加算事由及び加算月数 加算年
イ 昭和一四年八月二八日 二月 戦地戦務加算 六月から同年九月一六日まで 一月につき三月
ロ 同月一七日から同一五年三月三一日まで 七月 擾乱地加算一月につき二月 一年二月
ハ 同年四月一日から同一七年五月二日まで 二年二月 国境警備加算一月につき二月 四年四月
ニ 同二〇年七月三〇日から同年八月八日まで 二月 外国鎮戍加算一月につき一・五月 三月
ホ 同月九日から同年九月二日まで 二月 戦地戦務加算一月につき三月 六月
ヘ 同月三日から同二一年一〇月一六日まで 一年二月 外国鎮戍加算一月につき一月 一年二月
計 七年一一月
<2> 改正前の恩給法四〇条二項にいう「加算事由ノ生シタル月」、「事由ノ止ミタル月」とは、加算の対象たる期間が一暦月に満たなくとも一月単位で計算されることを前提としたうえでその計算単位を定めたものであり、加算年を附すべき基礎在職年の計算方法を示したものである。これに対し、同条三項の「二種以上ノ加算年ヲ附セラルヘキ期間」とは、現に二種以上の加算事由が重複した現実の期間の意味である。けだし、同条三項の「期間」は二項の「基礎在職年」と異なり、これを月から起算し月をもつて終るとしなければならぬ根拠はなく、右「期間」は計算単位としての「月」でも、「暦月」でもなく、現実の期間と解さざるをえないからである。したがつて、同条三項は、ある期間が現実に加算事由が重複しないにもかかわらず、加算年の計算が月単位で行われるため加算事由が重複するような外観を呈する場合にまで拡張されて解釈されるべきではない。もし右の解釈が不合理であるとすれば、それは同条二項が月単位の計算を原則とすることに起因するものにほかならない。
本件において現実に二種以上の加算事由が重複した期間は存在しないから、同条三項の「最モ利益ナルモノニ依リ」加算事由の一を付する旨の規定は適用されない。
5 仮に4の主張が理由がなく、加算年の合計が被控訴人主張のとおり七年六月一五日であるとしても、端月数切り上げか、あるいは昭和二〇年七月の外国鎮戍加算一・五月は切り上げにより二月と計算すべきであるから、加算年は七年七月になるというべきである。すなわち、
<1> 改正前の恩給法四〇条一項、二項は、加算年の計算が月単位で行われるべきこと、一月に満たない場合はこれを一月に切り上げて計算すべきことを定めている。
<2> 同法二八条一項は、「在職年」を月単位において行い、月単位未満(端月数)の表示を許さぬ趣旨であるから、端月数は一月に切り上げて計算すべき旨定めているというべきである。
「在職年」は「実在職年」、「基礎在職年」を含むとともに「実在職年」と「加算年」を包摂する上位概念として位置づけられる。したがつて、同項があえて「在職年」といい、「実在職年」なる文言を用いていないのは加算年をも含む趣旨と解すべきであり、同法六一条一項、六一条ノ二第一項の「在職年」に「加算年」が含まれていることからも明らかである。同項は単に「実在職年」の計算に関する規定ではなく、加算年の計算に適用される以上、端月数の切り上げを意味するものと解すべきである。
<3> 改正前の恩給法二八条ノ二及び右規定を受けた昭和二一年勅令第五〇四号による改正前の恩給法施行令(以下「改正前の施行令」という。)一一条ノ四は、防衛召集に関しては月単位ではなく日単位で計算が行われ、その集計日数を三〇日で除して月数を求め、端数はこれを切り上げて一月として計算する旨を定めている。これは防衛召集は召集期間が極めて短いにもかかわらず頻度が多いとの特殊性に鑑み日単位の計算を定めたものにすぎず、特例として端月数切り上げを定めたものではない。すなわち、改正前の恩給法二八条一項は端月数の切り上げにつき原則的に適用され、端月数が発生すれば切り上げる計算方法が採られているから、防衛召集の場合であれ、その他の場合であれ、端月数を発生させないという点では軌を一にしているのである。したがつて、同法二八条ノ二は例外的に端月数切り上げを規定したものではない。
6 以上のとおり、仮に加算年が七年六月一五日であるとしても、実在職年と合算すると一一年一一月一五日となり、在職年の月に満たない端数は切り上げられるから、総在職年は一二年となる。その理由は原判決三丁表八行目「(一)」から五丁表一行目末尾までのとおりである。
7 よつて、本件裁定は違法であるから、その取消しを求める。
二 請求の原因に対する被控訴人の認否及び反論
1 請求の原因1ないし3の事実は認める。4のうち<1>の基礎在職期間、加算事由及び加算月数は認める。その余の主張は争う。
2 昭和一四年九月、昭和二〇年八月、九月については加算年を附すべき期間が重複し、改正前の恩給法四〇条三項により最も利益なものが適用されるから、控訴人の加算年は次のとおりとなる。
加算年を附すべき期間 基礎在職年 加算年
イ 昭和一四年八月から同年九月まで 二月 六月
ロ 同年一〇月から同一五年三月まで 六月 一年
ハ 同年四月から同一七年五月まで 二年二月 四年四月
ニ 同二〇年七月 一月 一月一五日
ホ 同年八月、九月 二月 六月
ヘ 同年一〇月から同二一年一〇月まで 一年一月 一年一月
計 七年六月一五日
3 改正前の恩給法四〇条二項の「月」とは、暦月(当該月の初日から末日まで)を指し、「加算事由ノ生シタル月」とは、加算事由の生じた日の属する月の全体を、「事由止ミタル月」とは、加算事由の終了した日の属する月の全体を指すから、同項は、加算年が附されるべき基礎在職年は暦月をもつて計算されること、すなわち加算年の対象たる期間的な範囲を定めたものということができる。そして加算年を付すべき期間が重複する場合の算定方法を立法的に解決した規定が同条三項であり、同項にいう「加算年ヲ附セラルヘキ期間」とは、同条二項にいう「加算年ヲ附スヘキ基礎在職年」と同義であるから、その「期間」は暦月で計算した期間をいい、「現実の期間」と解すべき理由はない。重複して加算すべきでないことは明らかである。
4 実在職年の評価については、同法二八条一項三項の規定から明らかなとおり一暦月を二重に計算することを認めないとするものである。控訴人の主張によれば、在職年一月と計算される一暦月の実在職年に対し二重に加算年を認める結果となり、重複して加算しないとする四〇条三項の趣旨及び恩給法の法意を損なうものである。
5 同法二八条一項は実在職年の起算に関する規定であつて、加算年の計算には適用される余地がない。もし同項の「在職年」に加算年が含まれるとするならば、加算年についての同法四〇条二項の規定は有効に機能しないことになる。すなわち、同法二八条一項は引き続く在職期間につき実在職年を計算するうえでの始期と終期を定めたものにすぎず、在職年の計算に関する規定(例えば同法三〇条、四〇条ノ二)の適用の結果生ずる端月数の切り上げを定めたものではない。就職、退職の概念の存在しない加算年につき右規定が適用される余地はない。
6 また、同法六一条ノ二第一項にいう「退職」とは、軍人を退職したこと、実在職の終期を意味するものとして用いられているにすぎず、「在職年」というものに対して用いられているものではない。
7 改正前の施行令一一条の四第二号の端月数切り上げの規定は、改正前の恩給法二八条ノ二に基づく「別段ノ定」にすぎず、同法四〇条一項の「勅令」として加算年の計算につき端月数を切り上げることを定めた規定はないから、加算年の計算において生じた端月数は切り上げないこととしていると解すべきである。
8 控訴人の6の主張が理由のないことは、以上の他原判決七丁表九行目冒頭から八丁表七行目末尾までのとおりである。
第三証拠関係は、原審及び当審における証拠関係目録記載のとおりである。
理由
一 控訴人の旧軍人歴、基礎在職年、在職年加算事由が控訴人主張のとおりであること、控訴人主張のとおり本件裁定が行われ、控訴人が前置手続を経由したこと(請求の原因1ないし3の事実)は、当事者間に争いがない。
二 加算年の合計につき控訴人は七年一一月、被控訴人は七年六月一五日であると主張する。
基礎在職期間、加算事由及び加算月数が控訴人主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、両者の対立点は、結局のところ、加算年の計算方法につき、控訴人は、月の中途で加算事由たる勤務態様が変わつた昭和一四年九月、昭和二〇年八月、九月につき、加算事由の重複はないから改正前の恩給法四〇条三項は適用されず、かえつて同条二項が適用される結果、各加算事由ごとに加算年を計算すべきである旨主張するのに対し、被控訴人は、昭和一四年九月については戦地戦務加算の対象期間と擾乱地加算の対象期間が、昭和二〇年八月、九月については戦地戦務加算の対象期間と外国鎮戍加算の対象期間が重複するから同法四〇条三項が適用されると主張する点に帰着する。
改正前の恩給法二八条は、実在職年につき、同法四〇条は加算年につき、それぞれ算定方法を規定するところ、四〇条一項は加算年が附されるには基礎在職年として計算される実在職年が存在することを前提とし、更に同条二項は、加算年が附されるべき基礎在職年(実在職年)は暦月をもつて計算する、すなわち加算事由が生じた時点が暦月の中途であつても、その暦月の初日から加算事由の生じた時点までの期間を含むその暦月全体が加算年を附すべき基礎在職年として計算すべきもの(加算事由の終了についても同じ。)と規定している。更に同条三項は、加算年を附すべき期間が重複する場合には最も利益なものの一を附すものとするもので、同項の「二種以上ノ加算年ヲ附セラルヘキ期間」とは、同条二項にいう「加算年ヲ附スヘキ基礎在職年」と同趣旨であつて、その「期間」は暦月で計算すべきものと解される。そうすると、前記の昭和一四年九月、昭和二〇年八月、九月については加算年を附すべき期間が重複し、同条三項が適用される場合に当たるものといわざるをえない。
この点につき、控訴人主張のように、加算事由の重複した「現実の期間」についてのみ同法四〇条三項が適用される趣旨と解することはできない。もしそう解するとするならば、例えば、昭和一四年九月については、九月一日から一六日までは戦地戦務加算として一月につき三月が、九月一七日から三〇日までは擾乱地加算として一月につき二月が加算されることとなつて、基礎在職年は一月であるにもかかわらず、これが二月存在することを前提として加算年を計算することとなる。
しかしながら、同法四〇条一項は、加算年が附されるためには、基礎在職年として評価される実在職年が存在することを前提とするところ、右のように実在職年一月に対し二重に加算年を附すことは、実在職年を二重に計算することに帰着し、たまたま基礎在職年の計算上出て来る重複月にかような優遇をする法意は読みとれないから、同条一項三項の解釈として当を得たものではない。右のような不合理な結果を招来することは、控訴人が主張するように同条二項が月単位の計算の原則を採用したことに由来するものではなく、同条一項三項に関する控訴人の解釈に問題があるからにほかならない。また一暦月を二重に計算することを認めない同法二八条一項、三項の趣旨にも反することとなるといわなければならない。
そこでこれを本件についてみるに、イ 昭和一四年八月については戦地戦務の加算として三月が加算され、同年九月については加算事由が重複し同法四〇条三項が適用され、最も利益な戦地戦務加算によることとなるから三月が加算される、ロ 昭和一四年一〇月から昭和一五年三月までの六月間については擾乱地加算として一年が加算される、ハ 昭和一五年四月から昭和一七年五月までについては国境警備加算として四年四月が加算される(この点は当事者間に争いがない。)、ニ 昭和二〇年七月については外国鎮戍加算として一月一五日が加算される、ホ 昭和二〇年八月、九月については加算事由が重複し同法四〇条三項が適用され最も利益な戦地戦務加算によることとなるから六月が加算される、ヘ 昭和二〇年一〇月から二一年一〇月までについては外国鎮戍加算として一年一月が加算される、したがつて、加算年の合計は七年六月一五日となることが計算上明らかである。
したがつて、控訴人の右主張は採用することができない。
三 次に控訴人は、加算年が被控訴人主張のとおり七年六月一五日であるとしても、端月数の切り上げにより七年七月となると主張し、その根拠として改正前の恩給法二八条一項は加算年の計算にも適用されるから、これにより端月数の切り上げが認められると主張する。
同条一項は、「公務員ノ在職年ハ就職ノ月ヨリ之ヲ起算シ退職又ハ死亡ノ月ヲ以テ終ル」と規定するから、在職期間について実在職として計算するうえでの始期又は終期を定めたものと解すべきである。したがつて、暦月の中途で就職し又は退職した場合でも当該各暦月の一月に満たない在職期間は一月として計算されることとなる。「在職年」という用語は「加算年」を含めて用いられる場合もあるが(改正前の恩給法六一条一項、六一条ノ二第一項)、同法二八条一項は、就職、退職の概念の存在しない加算年の始期、終期を定めたものとは解されないし、加算年の算定については別に同法四〇条二項三項が存在することに鑑みると、二八条一項は加算年に関する規定でもあるとする控訴人の主張は独自のものであり、採用することができない。そして同項は、右の趣旨以上に出るものではなく、加算年の計算上得られた数値につき、端月数の切り上げを定めたものとは解されない。
また同法四〇条二項の趣旨は前記のとおりであつて、加算年の端月数の切り上げを規定したものではなく、同条一項の勅令として加算年の計算につき端月数の切り上げを定めた規定も存在しない。
更に控訴人は、同法二八条ノ二、改正前の施行令一一条ノ四は防衛召集に関し日単位計算を採用した特別規定であり、端月数切り上げを特例として認めたというものではなく、端月数切り上げの原則規定は同法二八条一項であると主張する。しかし、同条に関する控訴人の右主張が採用しえないことは右のとおりであり、改正前の施行令一一条ノ四は改正前の恩給法二八条ノ二の「別段ノ定」を設けたにすぎず、右規定が端月数の切り上げを認めているからといつて、他の場合にこれを準用ないし類推することはできない。
なお、以上のところから、外国鎮戍加算の一月一五日を二月に切り上げるべき根拠も存在しないから、控訴人の右主張はいずれも理由がない。
四 次に控訴人は、仮に加算年が被控訴人主張のとおり七年六月一五日であるとしても、実在職年と合算すると一一年一一月一五日となり、在職年の月に満たない端数は切り上げられるから、総在職年は一二年となると主張する。
しかし、右主張が理由のないことは以上の理由の他、原判決八丁裏五行目冒頭から一〇丁表一〇行目末尾までのとおりであるからこれを引用する。
五 以上のとおり控訴人の主張はいずれも独自の見解であつて採用することができない。そうすると、控訴人の旧軍人普通恩給は、僅かの不足ながら最低在職年の一二年に達していないから、これを給与しないとした本件裁定は正当であり、本訴請求は理由がない。したがつて、これと同旨の原判決は結局相当であるから本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 小堀勇 時岡泰 山崎健二)
【参考】 一審(東京地裁 昭和五九年(行ウ)第八〇号 昭和六〇年五月八日判決)
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める判決
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対して昭和五七年八月二四日付けでした旧軍人普通恩給請求棄却裁定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 原告の旧軍人歴
(一) 基礎在職年
原告は、
(1) 昭和一四年五月一日現役兵として歩兵第四七連隊補充隊に入隊し、昭和一七年五月二日現役延期解止、除隊となり、
(2) 昭和二〇年七月三〇日臨時召集により歩兵第三八七連隊に入隊し、昭和二一年一〇月一六日旧軍人を退職した。
(3) 原告の退職時の階級は、陸軍上等兵であつた。
(二) 在職年加算事由
原告はこの間、
(1) 昭和一四年八月二八日から同年九月一六日まで満州において戦地戦務に従事し、
(2) 同年九月一七日から昭和一五年三月三一日まで擾乱地において勤務し、
(3) 同年四月一日から昭和一七年五月二日まで国境警備に従事し、
(4) 更に昭和二〇年七月三〇日から同年八月八日まで外国鎮戍に服務し、
(5) 同年八月九日から同年九月二日まで戦地戦務に従事し、
(6) 同年九月三日から昭和二一年一〇月一六日まで外国鎮戍に服務した。
2 在職年の計算について
(一) 在職年算定における切上げ原則
実在職年や加算年の算定方法としては、わが法制上、二種のものが認められる。
その一は、実在職年あるいは加算年を暦に従つて計算し、基本単位(月あるいは年)未満の端数を切り上げる旨定めておく方法であり、軍人恩給法(明治二三年法律第四五号)二三条但書及び昭和二一年勅令第五〇四号による改正前の恩給法施行令(以下「改正前の施行令」という)一一条ノ四がこれである。
その二は、基本単位未満の端数が生じないように、その始期、終期のとり方を工夫する方法であり、昭和二一年法律第三一号による改正前の恩給法(以下「改正前の恩給法」という)二八条一項、四〇条二項がこの方法を採用している。この場合に基本単位未満の端数を生じることがないのは、その始期及び終期について端数の切上げ処理がなされているからであり、これも、方法は異るけれども、端数の切上げを当然の前提とするものである。
このように右のいずれの方法も基本単位未満の端数は、すべて切上げ処理することを原則としている。
(二) 改正前の恩給法の法意
改正前の恩給法二八条一項は在職年の計算全般について月を基本単位とするとの原則を定めた規定と解すべきである。
仮りに右が実在職年に限つての規定であるとしても、同法四〇条二項の規定と相まつて、改正前の恩給法は、全体として在職年(実在職期間に加算期間を合算した期間)の算定は月単位で行なうべき旨を規定しているものと解すべきである。
同法は一定の場合に実在職一月につき三分の一月から三月までの範囲の加算をする旨の規定を設けているが、これは加算の割合を表示したにすぎず、実在職期間に右の割合的加算を行なつた結果得られる合算期間が在職年数に引き直されるのである。そうであれば、月を基本単位とする改正前の恩給法にあつては、実在職年(基礎在職年)のみならず在職年についても一月に満たない数値は一律に切り上げられ、一月として扱うこととなるのが当然である。
(三) 原告の在職年の計算
(1) 基礎在職年(実在職年)の計算
原告の旧軍人としての実在職年は、改正前の恩給法二八条一項、二項本文により、始期及び終期の端数切上げによる前記1(一)(1)の三年一月と同1(一)(2)の一年四月を合算した四年五月である。
(2) 加算年の計算
加算年は改正前の恩給法三二条ないし三五条、四〇条及び九二条並びに恩給法の一部を改正する法律(昭和二八年法律第一五五号)附則二四条六項により、右基礎在職年のうち前記1(二)(1)は一月につき三月の割合による計六月、同1(二)(2)は一月につき二月の割合による計一年、同1(二)(3)は一月につき二月の割合による四年四月、同1(二)(4)は一月につき一・五月の割合による一月一五日、同1(二)(5)は一月につき三月の割合による六月、同1(二)(6)は一月につき一月の割合による一年一月が各加算され、以上の加算年の合計は七年六月一五日となる(右加算年の計算上、二種以上の重複加算が可能となる基礎在職期間に対しては、改正前の恩給法四〇条三項に基づき、最も利益なもの一種類が加算される)。
(3) 合算
従つて原告は合計一一年一一月一五日間、旧軍人として在職したものとみなされる。
(四) 原告の恩給受給資格
前述のとおり、改正前の恩給法における在職年の月に満たない端数は切り上げられるべきであるから、原告の総在職年は結局、一二年となり、同法六一条の二第一項所定の在職年一二年を満たしている。
3 本件裁定
原告は、昭和五五年九月一日、被告(当時、総理府恩給局長)に対し、改正前の恩給法に基づき旧軍人普通恩給の請求をした。
これに対して被告(前同)は、昭和五七年八月二四日付けで右請求を棄却する旨の裁定(以下「本件裁定」という)をした。
4 前置手続
原告は、本件裁定に対して、昭和五七年一一月二九日異議申立てをしたが、昭和五八年四月一八日棄却され、同年六月一一日内閣総理大臣に対して審査請求をしたが、昭和五九年二月二三日に棄却された。
5 結論
よつて違法な本件裁定の取消しを求める。
二 請求の原因に対する認否並びに主張
1 請求の原因1の各事実は認める。
2 同2は、そのうち(三)を認め、その余の主張は各法規の存在の点を除き争う。
3 同3の事実は認める。
4 同4の事実は認める。
5 本件裁定は以下に述べるとおり適法である。
すなわち、改正前の恩給法二八条一項は「公務員ノ在職年ハ就職ノ月ヨリ之ヲ起算シ退職又ハ死亡ノ月ヲ以テ終ル」と規定するところ、右規定は、実在職年を計算する上での始期及び終期、並びに実在職年の計算に関する限りで月単位をもつて計算する旨を定めたものにすぎず、規定の文言からも明らかなように、後述の加算年の算入によつて生じる一月に満たない期間(以下「端月数」という)についてまで、これを一月に切り上げることを定めたものではない。
改正前の恩給法及び同法施行令は加算年の程度について、実在職一月につき三分の一月から三月としているため、本件のように、実在職年月数と加算年月数を合算した場合に端月数が生じることがあるが、この端月数を一月に切り上げることを認めた規定はない。
ちなみに、恩給法等においては、改正前の施行令一一条ノ四のように、端数の切上げをする場合には、その旨を明文で規定しているところである。
以上のとおり原告の在職年数は下士官以下の旧軍人としての普通恩給最短在職年限一二年に達していないのであるから、原告に旧軍人普通恩給を給与しないとした本件裁定は適法である。
第三証拠<略>
理由
一 請求原因1(原告の旧軍人歴)、同2(三)のとおり加算年をも合算した原告の旧軍人在職年の合計が一一年一一月一五日であること、同3(本件裁定)、同4(前置手続)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 原告の主張は、改正前の恩給法二八条一項が加算年をも含めた在職年の計算全般について月を基本単位とする原則を定めたものであり、仮にそうでないとしても同条項は同法四〇条二項の規定と相まつて同法全体として右在職年の算定を月単位で行なうべき旨を規定しているというものである。
しかし、改正前の恩給法二八条一項は実在職年の計算に関する規定であり、同法四〇条二項は加算年を附すべき基礎在職年に関する規定であり、加算年についての端月数の切上げを直接規定したものでないことは明らかである。右条項がそれぞれ右期間計算の始期及び終期を月を単位として定めていることは原告指摘のとおりであるが、その文言から、加算年の計算から生ずる端月数についてまで一月に切り上げる旨を定めたものと解することはできない。
同法二八条ノ二の「防衛召集ニ依リ部隊ニ編入セラレタル軍人ノ在職年ノ計算ニ関シテハ本法中ノ在職年ノ計算ニ関スル規定ニ拘ラス勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ為スコトヲ得」との規定を受けた改正前の施行令一一条ノ四第一号は「在職年ハ就職ノ日ヨリ之ヲ起算シ退職又ハ死亡ノ日ヲ以テ終ル」と、同第二号は「在職年月数ハ一召集待命期間内ノ在職日数ヲ三十日ヲ以テ除シテ得タル数ニ相当スル月数トス此ノ場合ニ於テ三十日ニ満タサル剰余日数ヲ生シタルトキハ一月トシテ計算ス」とそれぞれ定めているが、右各号も加算年の計算により生ずる端月数の切上げを認めた規定ではない。
もつとも、原告の引用する軍人恩給法はその二一条において加算年を年単位で定め、二三条但書において年未満の端数を切り上げていたが、同法は恩給法(大正一二年法律第四八号)八四条により廃止され、本件裁定時には適用の余地がない規定であつて、これを本件裁定に係る加算年の端月数切上げの解釈上の根拠とする見解には賛成できない。
改正前の恩給法は、加算年として実在職一月につき半月(三七条ノ二)または三分の一月(三九条)などの端月数を生ずべき規定を設けたにもかかわらず、前述の同法施行令一一条ノ四第二号のような端数処理についての規定を加算年に関しては設けなかつたのであるから、同法の適用下で生じる加算年の端月数に係る在職年の計算に当たつては、端月数の切上げを許さない趣旨と解するのほかない。そして、恩給の受給資格を年月をもつて限る必要がある以上、たとえ半月でも右年限に欠けるときは、当該恩給の受給資格が発生しないとする制度も不合理ではない。
三 以上のとおり、原告の旧軍人普通恩給は最短在職年限の一二年に達していないのであるから、これを給与しないとした本件裁定は正当である。よつて、本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。
(裁判官 山本和敏 太田幸夫 滝澤雄次)